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桃井裕範さん(ジャズドラム/ニューヨーク市立大学シティカレッジ)
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
桃井裕範さん
桃井裕範さんプロフィール
15才よりドラムを始める。上智大学在学中、ジャズ研究会でジャズを始める。現在、ニューヨーク市立大学シティカレッジ校ジャズパフォーマンス科(BFA)在学中。
— はじめに、略歴をお願いします。
桃井 13歳でギター、15歳でドラムを始めました。ドラムを始めた頃、作曲にも興味をもったので、高校に入った頃にピアノも習い始めました。ジャズを始めたのは大学に入ってからです。
— 大学は音楽系の大学ではないですよね。
桃井 はい、普通の私立大学です。大学でジャズ研に入りました。そこからジャズの先生にも付き始めました。
— 音楽でプロになりたいと思ったのはいつ頃からですか?
桃井 それはドラムを始めた頃から思っていました。そのときはもちろんジャズでとは思っていませんでしたが、やっていくうちにジャズに傾倒していって、今はジャズでプロになりたいと思っています。
— 留学を意識したのはいつ頃からですか?
桃井 20歳のときにアイルランドに短期留学をしまして……。
— そうなんですね。それは音楽留学ですか?
桃井 いえ、語学留学です。そのときは夏休みの間、1か月くらい留学しました。英語がずっと好きで、いつか海外に行ってみたいと思っていて、ちょうど20歳の大学2年生のときに実現しました。海外旅行も初めて、一人で旅行をするのも初めてと、なにもかも初めての中だったんですが、留学したことによって逆に、海外で勉強するということはそこまで特別なことじゃない、と実感したんです。
— 身近なことに感じたんですね。
桃井 そうです。そこまで遠い存在の話ではないと感じました。それで、そのときはちょうどジャズにのめり込んでいった時期でもあったので、帰国したくらいから海外でジャズをしてみたいと思うようになりました。
— 今の学校を選んだ理由を教えてください。
桃井 最初はニューヨークに行くつもりはなくて、僕の先生がボストンのバークリーを卒業していることもあって、そちらを考えていました。その先生に留学のことを相談していたし、日本にいて留学というと、どうしてもバークリーを考えてしまうじゃないですか。でも、よくセッションで会うミュージシャンたちに相談したら、バークリーに行くのを止められまして……。
— え! それはどうしてですか?
桃井 別にバークリーを悪く言っていたわけではないんですが……。今のバークリーは生徒で溢れかえっているということと、バークリーを卒業しても結局ニューヨークに移る人がすごく多いようなんです。それなら、最初からニューヨークに行け、と強く言われました。
— それでニューヨークにしたんですね。
桃井 最初は、ニューヨークと言われても行ったこともないし、世界中のトップミュージシャンが集まるところというイメージだったので、日本のレベルに飽きてしまったり、物足りないわけではない、むしろ一から学びたいそんなふうに思っている僕がニューヨークに行ってしまっていいのか、とも考えたんです。それで、そこからニューヨークのことをいろいろ調べたんです。そうしているうちに、だんだんとニューヨークが現実的になってきたという感じです。
— なるほど。
桃井 それから、現実的にお金の面でも私立大学だとお金がすごくかかってしまうというのも大きかったです。シティカレッジは、公立なので私立大学に比べれば安いし、音楽教育もしっかりしているということで決めました。
— 最初は別の学校を希望していましたよね。
桃井 そうですね。最初は私立を考えていたんですが、オーディションがダメだったんです。そこで少しバタバタしたんですが、結局、シティカレッジに決めました。本当に運が良くて、下見と最初に受けた学校のオーディションを兼ねて5週間くらい向こうに滞在したのですが、ちょうど滞在中にシティカレッジのオーディションを受けることができたんです。そのあといったん日本に戻り、入学に合わせて再度渡米したという感じです。
— シティカレッジの入試試験はどのような内容だったのですか?
桃井 筆記で簡単な理論のテストと実技がありました。実技では2曲演奏しました。
— 曲は自分で決めるんですか?
桃井 はい、基本的には自分で決めた2曲を演奏します。実技の順番が最後だったんですが、ベースを演奏する教授が用事があって帰ってしまい、代わりにベースをしてくれる人もいなかったんです。それでピアノとデュオでやってくれということになったんです。ドラムなのでベースはやっぱり欲しかったし、周りの人とは違う条件になってしまったことに納得がいかなかったので、「不公平だ、いい加減だ」と文句を言ったんです。それで、なだめられまして(笑)。結局、僕が用意していたのはベースがいたほうがいい曲だったので、その場で言われた曲を演奏したのですが、感触が良かったらしく、合格することができました。
— そのあたりは日本とは全然違いますよね。
桃井 そうですね。いい加減(笑)。実際に向こうに住むようになって、そういうことはよくあることだと実感しています。
— 面接はなかったんですか?
桃井 実技が終わったあとに少し話をしましたが、雑談のような感じで、合否に影響はなかったのではないかと思います。これが受かっても、シティカレッジ自体に受かったわけではないと言われました。もしこの試験に通っても、ミュージックデパートメントのBFAというコースに受かっただけで、シティカレッジ自体の合否は別のところから出る、と。
— 試験は、だいたい何人くらい受けていたんですか?
桃井 けっこういたと思います。具体的な人数はわからないのですが、年々増えているようです。
— 日本人はいましたか?
桃井 いたとは思いますが、試験のときには会わなかったです。
— 試験に向けて準備はしていきましたか?
桃井 していないです。自分が決めた曲で、ソロが回ってくるだろうなとは思っていたので、イメージくらいはしていきましたが、ジャズの場合、その場で違うことが起こりうると思っていたので、特に試験に向けての準備はしませんでした。普段通り、叩けるようにいつも通りの練習をしていました。
シティカレッジの仲間と
— 現在はシティカレッジに通って1年くらい経過していますが、いかがですか?
桃井 すごく楽しいですね。大学自体は大きいですが、僕が通っているのは、ミュージックデパートメントのジャズ科、さらにBFAとどんどん狭まったところなので、基本的に教授も含めて全員顔見知りで、仲良くやっています。
— 授業はどういう内容なんですか?
桃井 きちんと決まった教科書やカリキュラムがあるわけでもなく、教授によってもぜんぜん違いますが、教授が長年やってきたことを教えてくれて、その中で生徒もどんどん質問するので、活気があります。
— 基本的にはプライベートレッスンなんですか?
桃井 いや、逆です。基本的には他の生徒と一緒で、セオリーやアンサンブルの授業があって、学校内ではそちらのほうがメインです。外では、プライベートレッスンが多くて、先生を選んで教えてもらっています。
— いまの先生は自分で選ばれたんですか?
桃井 はい、そうです。うちの大学の場合、最初のセメスターでは、学校が出した先生のリストがあってそこから選ぶ形なんですが、僕はどうしても習いたい先生がいたので、その先生に直接交渉をして、その先生に教えてもらっています。
— プライベートレッスンは週に何時間くらいやっているんですか?
桃井 それは先生の都合で変わってきます。前日にキャンセルになってしまうこともあれば、「明日空いてるよ」と前の日に連絡が来ることもあります。
— 日本でレッスンを受けたときと何が違いますか?
桃井 ドラムのレッスンというのは、理論があるわけではないので、多くの場合、有名な教則本を使って人それぞれのやり方でやっている感じです。やっている内容は、日本にいたときとそんなに変わりませんが、個人のレベルが違いますね。あと、一番大きいのは、向こうの先生は、マイルス・デイビスのような大物のアーティストと共演していたり、実際に知っているということです。CDを聞いて、こちらが推測していたことを実際の話として先生から聞けるというのは、貴重な経験です。
— 外国の先生は、生徒の個性を伸ばしていく指導をするイメージがあるのですが、そのあたりはいかがですか?
桃井 そうですね。基本的にはこっちが何をしたいのかを先生に伝えて、それに沿って指導してもらうという感じですね。だから、逆に、自分がやりたいことを持っていかないと、難しいと思います。先生も自分の仕事や他の生徒をたくさん抱えているので、個性を見るといっても、こちらが何をやりたいかは伝えていかないといけません。
— 具体的にレッスンはどのように進められますか?
桃井 レッスンでは、何か毎回継続して見てもらうようにしています。それは教則本を使って、基礎的なことで見てもらうことが多いのですが、ひとつのパターンを1回やって終わりというふうにはしたくなかったので、先生に伝えて、継続的に見てもらっています。それで、実際に演奏して、変な癖を指摘してもらったり、こうしたらいいといったアドバイスをもらっています。それとは別に毎回新しいことも教えてもらいます。
— 先生との相性はいかがですか?
桃井 いいと思います。友達のような感覚で、付き合っています。
— シティカレッジは、どこの国の生徒さんが多いんですか?
桃井 やはりアメリカ人が一番多いです。留学生は、けっこういろいろな国から来ています。ヨーロッパ、アジア、中米、南米……さまざまです。
— 他の生徒さんのレベルは高いですか?
桃井 まちまちですね。プロでやっている人もいるし、反対にそんなにできない人もいます。
— 学校にはどのくらい日本人がいますか?
桃井 今は少ないです。僕はBFAというオーディションを通って入った専門的な科にいるんですが、その中でインストゥルメンタル(楽器奏者)は僕を入れて3人しかいません。僕とギターとピアノが一人ずつです。ボーカルのほうはけっこう多いです。あとは、オーディションなしで入れるBA、レコーディング技術を学ぶソニックアーツ、それとクラシック科にも、日本人がいます。
— 練習室は自由に使えますか?
桃井 幸運なことに、「練習室に住んでいる」と言われるくらい(笑)、たくさん使えています。夜は並ぶこともあるんですが、競争率はそんなに高くありません。
— 練習室は何部屋くらいあるんですか?
桃井 2フロアー分あって、全部で18部屋くらいです。ミュージックデパートメントの生徒は200人以上いるので、十分な部屋数とは言えませんが、僕が使えているということは、意外にみんなあまり使っていないということですね…。同じニューヨークにあるニュースクールやマンハッタン音楽院だと生徒のレベルも高いですが、その分練習もたくさんするので、練習室が使えないという話を聞いたりもします。そういう意味ではシティカレッジは、練習しやすい環境だと思います。
ニューヨークでジャズを学ぶ
— 他にシティカレッジの良いところはありますか?
桃井 実はニュースクールからシティカレッジに転入する人が意外に多いんです。授業料の問題が大きくて、ニュースクールは奨学金なしでシティカレッジのおよそ3倍かかります。50%の奨学金が出ても、まだシティカレッジのほうが安い。それで授業の内容にそれだけの差があるかというと、そうではないと思うんです。また、そういった学校は第一線で活躍するようなプロのアーティストも在籍していますが、そういう人たちはやはり仕事を優先することが多いので、学校に来ないこともしばしばだそうなんです。来たとしても、授業以外では一緒に演奏できる機会は少ない。そういう意味では、シティカレッジの場合、規模は小さいのでより多くの機会を得ることができる。それは、不幸中の幸いじゃないですけど、シティカレッジに入って良かったと感じるところです。それにシティカレッジは、以前はロン・カーターや現在はジョン・パティトゥッチといった素晴らしいミュージシャンが教鞭をとっていて、そういう人たちと学べるうえ、授業料が安いという点で、僕は良い学校だと思います。
— 1日のスケジュールはどのような感じですか?
桃井 だいたい7時半に起きて、ゆっくり準備をします。9時に練習室が空くので、授業前に練習をして、10時か12時から授業を受けます。もちろん、授業がない日もあります。ご飯を食べて、夕方からまた練習。23時くらいまで練習をして、家に帰ります。家には本当に寝に帰っているような感じですね。太陽に当たらないので、どんどん白くなっていきます(笑)。
— どういうところに住んでいるのですか?
桃井 最初に5週間滞在したときは、ホームステイしていました。入学に合わせて来たときはまずハーレムのYMCAに滞在したのですが、本当にひどいところで、2週間の予定を1週間にして、そこを出ました。
— YMCAはどうひどかったんですか?
桃井 本当にひどくて……。悪い要素がすべてありました(笑)。狭い、汚い、うるさい。一刻も早く出たかったです(笑)。
— それで今のアパートに?
桃井 はい。最初の1か月は部屋が短期滞在者用のところしか空いていなかったので、少し高めになってしまったんですが、ホテルよりは安いのでそこに住んで、そのあと通常の部屋に空きが出たので、そこに移りました。
— 英語は、日本で勉強されていかれたんですか?
桃井 英会話などを特に勉強したことはなかったんですが、大学受験のときに英語を重視していました。アイルランドに行ったときも英語を話すのが楽しかったです。それから、日本にネイティブの友達がいたので、留学前に英語で会話をするようにしてもらったりしていたので、こちらに来てからもあまり英語で苦労したことはありません。
— すごいですね。
桃井 最初にアイルランドに短期留学したときは少し苦労しましたし、こっちでもいまだにわからない言葉が出てくることもありますが、それはその都度、調べるようにしています。英語を話すこと自体は好きなので、言葉で困ったことはそんなにはないですね。
— 英語を話すことに抵抗がないというのは大きいかもしれませんね。
桃井 そうですね。学生のときにアイルランドに行ったのが良い経験になっているかと思います。
— 勉強のコツはありますか?
桃井 語学に関しては慣れだと思います。考えなくても言葉が出て来るくらい、一人で家でブツブツ同じ言葉を繰り返したりしています。少し怪しい感じですけど(笑)。新しい表現や慣用句をネイティブの人が言っているのを聞いて、この表現を使ってみたいと思ったら、練習するようにしています。
— 音楽の練習についてはいかがですか?
桃井 合理的な練習法に従って、ひたすら練習することだと思います。ドラムの場合はそれが教則本になりますが、だいたいみんな、同じ教則本を使っています。とてもシンプルなものですが、何十通りも違ったやり方があるし、みんなそれを自分たちでどんどん発展させている。例えばすごい黒人ミュージシャンでも、演奏を聞いただけだと感覚だけでやっているように聞こえるんだけれども、きちんとそういった練習をずっとやってきているんです。日本だとそういう部分があまり大事にされていない気がします。
— 卒業後、何か目標はありますか?
桃井 あと2年くらいで卒業なんですが、まだ勉強がしたいので、金銭面で余裕があれば大学院に2年間行きたいです。そのあとは、こちらに拠点をおいてやっていきたいです。やはり1年間ニューヨークに住んでみて、そう思うようになりました。
— 思い切って留学してみて良かったですね。
桃井 はい。やはりジャズはアメリカの伝統的な音楽だと思うので、本場のニューヨークを体験できて良かったです。CDでしか聴けなかった音を体感できましたし。まあ、良かったことをあげればキリがないんですが……。音楽に100%集中できる環境にいられること、世界中のトップミュージシャンがいる土地であること、学校で出会った仲間……、それらを思うと、本当に留学して良かったです。
— 留学を悩んでいる人にアドバイスをお願いします。
桃井 経済的にもタイミング的にも行けるときに行くのがいいと思います。僕の場合も、まだそういうレベルではないんじゃないかと悩んだりもしましたが、行けるタイミングで留学してしまうのがいいと思います。
— 留学前にしておいて良かったなと思うことは何ですか?
桃井 みんなに当てはまるわけではないと思いますが、僕の場合は、日本で大学を卒業したことですね。もし、大学在学中に留学を悩んでいる人がいたら、絶対に大学を卒業してから行け、と僕はアドバイスします。
— それはどうしてですか?
桃井 他の大学はわからないのですが、僕はセカンド・ディグリー(第二学位)という扱いで、今の大学に通っています。日本の大学で取得した単位が認められるので、一般教養の授業が一切免除されるんです。そうすると、音楽の授業だけを取ればいいので、音楽だけに集中できる。高校を卒業してすぐに留学をしたいという人は、また話が違うと思いますが、在学中の人は大学を中退して留学するよりは、卒業してから留学するほうが、より音楽に集中できる環境を作れると思います。
— 他には何かありますか?
桃井 音楽の勉強でも語学の勉強でも、日本でできることは日本でしておいたほうがいいです。せっかく留学するのに、留学先で日本でもできることをするのは、もったいないので。行くと決まったら、日本でもできることはそれまでに全力でしておいたほうがいいと思います。
— 1年間、海外で生活をしてみて、成長したなと感じる部分はありますか?
桃井 ミュージシャンとしてのキャリアの成長もあるかもしれませんが、もしひとつだけ挙げるとしたら、人間的な成長のほうを挙げると思います。一人暮らしをしたこともなかったし、1年間過ごしてみて、いろいろな経験をすることができました。病気をして日系の病院を探して点滴を受けたりだとか、生活していくためのさまざまなことだとか、全部を自分でしながら、音楽を一生懸命やってきて、振り返ってみると、人間として少しは成長できたかなと感じています。
— なるほど。今日は本当にありがとうございました。
桃井裕範さんの情報は下記から。
http://www.myspace.com/hironorimomoi
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