近藤富佐子さん/声楽/パリ地方音楽院声楽教授/フランス・パリ

近藤富佐子さん プロフィール

「音楽家に聴く」というコーナーは、普段舞台の上で音楽を奏でているプロの皆さんに舞台を下りて言葉で語ってもらうコーナーです。今回、パリで声楽の教授としてご活躍中の近藤富佐子(コンドウフサコ)さんをゲストにインタビューさせていただきます。「音楽留学」をテーマにお話しを伺ってみたいと思います。
(インタビュー:2011年5月)

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ー近藤富佐子さんプロフィールー
武蔵野音楽大学首席卒業後 専攻科にて学ぶ。大学時代より フランス音楽に興味を持ち パリ音楽院に留学、声楽科、オペラ科プルミエプリ授賞。日本人で初めてPerfectionnementに入学する。s'Hertogenbosch国際コンクール(オランダ)2位、Viottiコンクール(イタリー)3位、Rio de Janeiro国際コンクール(ブラジル)全審査委員一致で1位を獲得。パリ音楽院在学中よりリサイタル、オラトリオのソリスト等出演活動を始める。フランスを中心にして イタリア、ベルギー、カナダ、アメリカ、イギリスで公演。Monteverdi(ottavia) Glück  Mozart(Fiordigigli, La Contessa…)、Puccini(Mimi,Butterfly,Suora Angelica,Liù) Gounod(Marguerite) Massenet Bizetなどのオペラで活躍。オラトリオでは、Bach, Beethoven 第9 Missa Solemnis, Mozart, Rossini,Mendelssohn, Verdiのレクイエムを 歌う一方、リサイタルでは、フランス歌曲、ドイツ歌曲、スペイン歌曲、イタリア歌曲に取り組んでいる。作曲家 Alain Margoni (ローマ大賞、パリ音楽院名誉教授)と結婚し、現代音楽にも力を入れている。現在 国立パリ地方音楽院教授。マスタークラス、国際コンクールの審査員で活躍。 


-まずは簡単な自己紹介をお願いします。

近藤  武蔵野音楽大学卒業後、パリ音楽院へ留学し首席で卒業した後に、大学院にも行きました。その後、演奏家として活動しながら学校の講師もやるようになり、今に至っています。

-声楽がご専門ということですが、音楽に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

近藤  小学校に入ってすぐ、音楽というものが楽しくなって、ピアノを習いだしたのがきっかけです。そして、高校1年生のとき、クラブ活動でコーラスを始めてから、声楽に興味を持ち始めました。

-高校から歌を始められて、音楽大学に進み、留学まで至ったわけですね。フランスを選ばれた理由は?

近藤  フランスものに興味があり、それをやりたかったので。

-国に興味があったというより、音楽に興味があったんですね。他にドイツやオーストリアなどの選択肢は?

近藤  友人でドイツやイタリアに行った人もいましたけどね。私は学校でフランス語を専攻をしていたこともあり、行ったらどうにかなるだろうと 思って。赤ちゃんだって、そこに住んでいたらそこの言葉を覚えるだろうと(笑)。「こんにちは」や「ありがとう」程度は話せましたけどね。

-フランスで声楽を勉強する際、悪い点って何かありますか?

近藤  フランスでしか留学していないのでよく分かりませんが・・・。私個人としては、自分の勉強のために行って、それを教えてくれる先生に出会って、そ の勉強が出来たのは良かったと思っています。どこの国に行くというよりも、良い先生に出会うことが大事なんですよね。最初は学校で与えられた先生についた んですが、1年、2年経つうちに自分のやりたい方向性が出てきましたので、他の先生に移って教えてもらいました。

-実力が伴わないと、先生を替えるのは難しいと聞きましたが。

近藤  入学試験や卒業試験がありますよね。その試験によって、何人空きが出るかなんですよ。自分のつきたい先生に、何人空きがあるかがまず問題 で、空きがないと入ることは出来ないんです。今のパリ音楽院では、第一希望者から第三希望者まで書くことは出来るんですけど。自分のやりたい勉強がしっか り決まった状態で、どの先生につくかを考えたらいいと思います。

-留学をする上で最も重要なことは何でしょうか?

近藤  どんな先生にどんなことを学びたいかをしっかり決めて来ること。それが重要です。こちらは、音楽院であって、大学じゃないですからね。専 門家になるための勉強なんです。だから日本の大学みたいに、ある程度勉強すれば4年間で卒業できるというシステムではない。なので、卒業した人たち、皆さ ん「主席」っておっしゃると思いますが、主席でないと卒業ではないんです。私の年でいうと、主席は3,4人しかいなかったです。それを持っていない人は卒 業にならないんですよ。一等賞は卒業になりますが、二等賞は卒業じゃなかったんです。今はだいぶ、大学にシステムを近づけているようですけどね。

-厳しいんですね!

近藤  それを覚悟して勉強しないといけない。今はパリ音楽院も変わって、「一等賞だけが卒業」とならないようになってきていて、賞を取るというのもあります。それも、みんなが取れるわけではないですけどね。

-海外で生活する上で、ストレスになることはありましたか?気をつけるべきことなどもあれば教えて下さい。

近藤  私が先生としての目線で見ていて一番思うことは、どうしても日本人は日本人同士でつき合いが多くなりすぎるということですね。それは問題があると思います。ヨーロッパに来てまで、日本人同士でつき合うというのはもったいないですよ。

-日本人留学生は多いですか?

近藤  国立パリ地方音楽院では、100人くらいいるそうです。私のクラスには3人います。声楽は、私のクラスしかないので、学生同士が助け合って生活していますね。日本人同士だけというのはないみたいですけど

-一番日本人が多い科は?

近藤  ピアノ科が多いんじゃないかな。もともとの人数も多いですからね。

-歌は何人くらいなんですか?

近藤  少ないですね、16人です。私しか先生がいませんので。フランス、トルコ、韓国、アメリカ。フランス人は4人くらいですね。

-留学後にプロの演奏家として現地で働くにあたって、日本人が有利な点、不利な点はありますか?

近藤  ありません。実力があれば。

-やはり実力主義ですか。日本人の考え方や性質などからして不利になることなどは?

近藤  この学校に来る人たちは、学生だけどそれ以上の物を身につけたいという人が多い。日本人で「箔を付けるために留学する」という人がいますけど、う ちにはそれはないです。何のためにフランスまで留学しているのかを、はっきり意識しているんです。どこの国の人でも同じですよ。ただ、日本人や韓国人は、 「自国に帰って教えるためのディプロマがほしい」という人もいるんです。私は、まずはアーティストであって欲しいと思っているんですよね。それが出来た上 で、先生になるならなってほしい。

-近藤さんはそういう道なんですよね。

近藤  たまたまですけどね。知っている方に「先生が病気なので代行して下さい」と頼まれたので。

-それは普通とは違うんですか?

近藤  今では、学校の先生になるための試験に受からないと、教える資格が取れないんです。学校を卒業した後に、さらに先生になるための勉強をしなくてはいけない。私たちの頃はそれがなかったので。

-いちばん最初は、どうやって音楽家の仕事を見つけたんですか?

近藤  私の場合は学校に在籍している間に、コンクールで賞をもらったんですよ。それで、劇場のオーディションに行って、ディレクターに次の舞台に出てくれなどと頼まれたのが始まりです。それから少しずつ、マネージメントもやってくれるようになって、進んでいきました。

-漠然とした質問ですが、音楽は先生にとってどういうものですか?

近藤  難しいですね(笑)。まず、音楽がない生活は考えられません。主人は作曲家なんですけど、私たちは二人ともこれを職業にしようと思ってい た訳じゃないんです。好きなことを一生懸命勉強していたら、職業になってしまった。それしかないという状態ですね。こうなりたくてこうなったというわけ じゃなく、好きで好きでしょうがなくて、あれも知りたいこれも知りたいと勉強していたら、今に至ったという感じです。そのほかにやることがなかったのもあ るんですけど(笑)。

-高校生で歌に出会ってから、「これだ」と思われたんですね。

近藤  音楽以外に何が出来るかって、考えたこともないです。これが普通なんですよ、わたしにとって。音楽で生活をしている人はみんなそうだと思いますよ。

-ご主人様は、どちらの方なんですか?

近藤  イタリア系フランス人です。作曲家で、ローマ大賞をもらっている人で、パリ音楽院のアナリーゼをやっていました。たまたま彼の作曲した歌を私が歌ったのが出会いです。

-フランス音楽を勉強した方なんですか?

近藤  彼の場合は11歳くらいからパリ音楽院に入って勉強していました。先ほども話したように、音楽院は大学ではないので。音楽しかやっていない人なんです。

-一緒に音楽活動をされたりするんですか?

近藤  よく彼の作曲したものを歌ったりはしました。でも、そんなに楽しくないんですよ(笑)。大げんかになりますから。「どうしてこれが出来な いのか!?」「書き方が悪いからだ!」みたいに怒鳴り合ったりもしましたよ(笑)。専門になるとお互いその道に厳しいですからね。なので、主人とは仕事し ないようにしていました。

-仕事以外での共通の趣味はあるんですか?

近藤  主人も私も美術館巡りが好きなんです。そういうことは話が合います。

-日本にはよく来られるんですか?

近藤  一度来たことはあります。それ以来、仕事だったりアイスランドの噴火だったりで、なかなか来られません。日本食もなんでも食べますので、また連れてきたいですね。

-では、近藤さんの音楽を通しての夢を聞かせて下さい。

近藤  自分の生徒に対して、自分にしかできない音楽を作り出してもらうことですね。今は、いろんなところから音楽が入ってきて、聞いているうち にみんな同じような音楽しか作れない。楽譜を読んで、歌詞もあるし、それをよく読んで、どういう風に表現したいかを、自分で見つけ出して欲しいと思ってい ます。自分の頭の中で、楽譜だけで想像して欲しい。「誰々の演奏を聞いたらこうやっていた」とかいうのを聞かされても、おもしろくないですよ。

-経験がないと難しいでしょうね。

近藤  本を読んだとき、イメージがわきますでしょ?景色がうかんだり、主人公の仕草なんかをイメージできるでしょ?それと同じことです。先に映 画を見ないで、本を見て自分で映像を作り出して欲しい。人によって違うからこそおもしろい。そこまで行くには時間はかかりますが、時間をかけてやって欲し いですね。楽譜を読むというのはそういうことだと思います。音と音の間を読むんです。

-難しそうですね・・・。

近藤  難しいけどそこが楽しいんですよ。そして楽しくてやめられなくなりますよ(笑)

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-作曲家が作ったときのことをイメージするっていうのも大事ですよね。

近藤  作曲家は創作家です。私たち音楽家は、創作家のお手伝いをする人なんです。どうやってそれが出来るかの問題なんですよ。

-昔の曲は、その人はもういないから難しいですよね。

近藤  それがおもしろいところ。演奏家によって味が変わってくる、それがおもしろいところなんですよ。作曲家の意図とずれちゃっているということもあり 得るんです。有名な演奏家でも、「私はこの人のこういう演奏はイヤだ。私はそうは思わない」っていうのもありますよ。でもそれで良いんじゃないかと思いま す。

-その違いを理解するのも音楽の楽しさなのでしょうか。

近藤  高校生の時、ある先生が、同じ曲でいろんな人の演奏を聴かせてくれて、すごくおもしろかったですよ。その先生自身が作曲家だったんですけどね。ベートーベンのシンフォニーを、いろいろな指揮者バージョンで聴かせてくれて。

-自分の感覚と合う指揮者が見つかるかもしれないですね。オーケストラによっても違うのでは?

近藤  この曲はこの人に演奏してもらうとすごく良い、とか好みが出て来ます。

-自分の音楽を作れる人を育てていく、というのが今後の先生の夢なんですね。

近藤  はい。そういう音楽家を作り出したいですね。努力しています。

-最終的には一人一人が努力することですものね。

近藤  私がやっているのは、糸のはじっこを見つけて引っ張り出していくという作業です。勉強の仕方を教えるだけで、生徒が勉強してくれるんで す。いつも、「私の言っていることは、全部は正しくはない。正しいと思うことは、全部自分で見つけてください」と言っています。それに私は、「先生」とは 呼ばれたくないんです。なので、みんなフサコって呼んでいますよ。私も仕事という感じではなく、本当に楽しいですよ。

-楽しそうですね。

近藤  ぜひ、今度来て見て下さい。ほかの楽器の人もよく来るんですけど、私のクラスのドアはいつも開いているので、勝手に入って勝手に聴いて いって下さい、というシステムなんです。「見に来ていいですか?」と聞かれたら「もちろん!」と。私の生徒もいろいろ話が聞けて刺激になるんじゃないで しょうか。

-声が楽器となると、コンディションを維持するのは大変じゃないですか?

近藤  風邪を引いたときでも歌えるようにするのがテクニックだと思っていますから。舞台に立つ人間は、熱を出しても舞台を休むことは出来ませんから。

-いつもと声が違うというのはわかっていながら舞台に出るんですね。

近藤  歌は、声だけじゃなくて他の要素もあるというのを知って欲しいです。声がなくても表現は出来ますから。美声がなくても表現が出来る。 ちょっとした風邪くらいで、歌には影響しません。声以外が一番大切。声は道具であって、表現が一番大事なんですよ。表現を入れると、声じゃなく表現が聞こ えてくる。感情がいかに外に出て行くかですね。

-そうなんですね。素人には、どんな風に伝わっていくのか想像できません。

近藤  たとえば、わたしはカラスの声は嫌いなんですが、彼女の表現は素晴らしいと思う。そういうことですよね。

-声以外のところから聞き取るものなんですね。

近藤  誰かが怒っている時って、きれいな声じゃないけど怒っているのは伝わりますますよね、それと同じです。悲しいのも、声じゃなくてほかのこ とで悲しんでいるって分かりますよね。不思議なものですけど、それが魅力でみんなやっているんだと思います。ピアニストもバイオリニストも音があって、音 色がありますが、音色以外に何かがありますでしょ?

-聴く側も、聴く技術っていうのは必要ですね。

近藤  いえ、読み取ろうとか、堅くなって聴かなくて良いんですよ。伝わるか伝わってこないかは観客の能力は必要ない。演奏家の能力です。観客は好きだとか嫌いだとかそれで良いと思います。

-聴いてみて「いいな」とか「好きだな」と思ったりすることで良いのでしょうか。

近藤  それで良いと思います。理解することは必要ないです。感激したかどうか。

-同じ演奏を聴いても、自分が置かれている状況で、聞こえ方や受ける感動が違うなということはありますけどね。

近藤  そうそう。それで良いんじゃないかと思いますよ。芸術は良いときと悪いときがあって普通だと思います。聴く方にしても、その時の状態で変わってきますから。頭を固くしなくても大丈夫だと思います。

-最後に、これから音楽を海外で勉強したいと思っている人にアドバイスをお願いします。

近藤  音楽は贅沢なものなんです。それを出来るチャンスがある人は、すごく努力して良い物を作って欲しいと思います。今、出来ないことでも、努 力をすると出来るようになる、だからそれを忘れないで毎日努力して下さい。あと、音楽をやる人は音楽を聴いているだけではダメ、他のことにも興味を持って 欲しい。フランスに来たら、フランスのパンを食べてワインを飲んでチーズを食べて・・・と、生活に取り入れていくうちに、フランス音楽は見えてくるんです よ。外国に行った人は、そこの国の食べ物を食べることで音楽が分かってくる。美術館で絵を見たりするうちに、その国の感じが分かってくる。生活の仕方が分 かれば音楽につながる。テクニックばっかり勉強しても無理ですよ。

-周りの環境も積極的に取り込んで、楽しんでいくということですね。

近藤  それじゃないと行った意味がないですからね。

-私もすごく勉強になりました。今日はお忙しいところ本当にありがとうございました!
 

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