音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
ラムジ・ヤッサ先生と
安藤はるかさんプロフィール
4才よりピアノを始める。上野学園大学音楽学部音楽学科卒業。エコールノルマル音楽院ラムジヤッサ教授のレッスンを受講(アンドビジョン特別プログラム)。
- はじめに、これまでの略歴を教えてください。
安藤 上野学園高等学校音楽科ピアノ専門を卒業し、上野学園大学の音楽学科に進学し、フランシス・プーランクという作曲家を研究していました。
- 今まではピアノの演奏と音楽の研究を主にされていたんですね。
安藤 はい、そうです。
- 卒業後はどのようにされていたんですか?
安藤 外為の事務をしているんですが、社会人になって2年目くらいから、またピアノが弾きたくなって再開しました。ピアノ教育連盟のオーディションや、日本クラシック音楽コンクールの本選に参加しました。
- すごいですね。それで、今回、留学に参加したきっかけは?
安藤 ウィーンに留学した友達が帰ってきて、話を聞いて影響を受けたのが直接のきっかけです。
- パリのヤッサ先生を選ばれたのはどうしてですか?
安藤 プーランクが過ごしたパリに行ってみたかったというのと、今ついている先生からヤッサ先生はとても素晴らしく、優しく、よく見てくださる先生だという話を伺って、それで選びました。
- 先生がヤッサ先生とお知り合いなんですか?
安藤 いえ。先生のお友達がついていたそうなんです。
- 実際のレッスンはいかがでしたか?
安藤 とても温かく、優しく、表現豊かで、熱心に指導してくださるので、とても素敵なレッスンでした。
- どういう教え方なんですか?
安藤 ご自分で弾かれて解説をしてくださいました。あとは、音や技術を物に喩えてくださるのですが、その喩えがすごく上手でわかりやすかったです。
- 例えばどういった喩えがありましたか?
安藤 和音の変化するところで、「チョコレートの箱から魚が出てきた」とか、日本人はしないような表現なんですが、豊かな表現でとても分かりやすかったです。あとは、和音の1つの音を出したほうがいいというときに、机に物が均等に置かれていたら使いにくいでしょう、という風に教えてくださいました。
- 曲はどのような曲を練習されたんですか?
安藤 ショパンのバラード第1番、ドビュッシーの版画から「塔」、ブラームスの「4つの小品」、ヒナステラのアルゼンチン舞曲、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番などです。
モネの絵の前で
- これらの曲のなかで印象的な教え方はありましたか?
安藤 やはり、ドビュッシーは音の色をつけて演奏するのが印象的でした。ブラームスでは美しいハーモニーの感じ方。それから、先生がショパンやベートーヴェンを全楽章弾いて解説してくださったんですが、とても感動しました。
- 贅沢ですね。
安藤 はい(笑)。
- 先生が実際に弾いてくださって、手の使い方といった技術的なことと音楽的なことの両方を教えてくださるという感じですか?
安藤 そうですね。例えば、カギを開けるときは肘をまわす、だからピアノも肘を使って、腕全体で弾きなさい、といったことを実際に先生が弾きながら見せてくれました。
- 3回のレッスンはどのように進められましたか?
安藤 最初のレッスンではドビュッシーとバラードを教えていただきました。まず先生がバラードを全部弾きながら、ポイントを注意してくださって、次のレッスンまでにバラードを直してくるように言われました。2回目のレッスンは、バラードとブラームスを見てくれました。バラードは少し改善したので、ブラームスを直しくださって、同じように3回目のレッスンまでにブラームスを直してくるように言われました。最後の3回目のレッスンは、ブラームスの直し、ヒナステラの3曲、ベートーヴェンと盛りだくさんでした。
- そうすると60分のレッスン時間は短く感じそうですね。
安藤 そうですね。でも、少し長くやってくださいました(笑)。
- そうだったんですか。どのくらい長くやってくださったんですか?
安藤 1時間くらい延びて、トータル2時間くらいになっていたかと思います。
- 安藤さんは最初と最後のレッスンのときは通訳をつけられて、2回目は通訳なしでしたよね。レッスンは何語で受講されたんですか?
安藤 1回目と3回目はフランス語で、2回目は英語で教えていただきました。
- 英語でのレッスンはいかがでしたか?
安藤 やはり通訳なしで直接話しかけてくれるので、2回目のほうが1回目よりも親近感がありました。通訳さんがいると、通訳さんのほうを見て話してしまったり、聞いてしまったりするので、どうコミュニケーションをとっていいのか迷ってしまうこともありました。
- 通訳の方はどんな方でしたか?
安藤 とても気さくで親切で明るく話しやすい方でした。
- レッスン中の通訳も分かりやすかったですか?
安藤 はい。上手でした。
- もし、今度レッスンを受けるとしたら、通訳はありにしますか、なしにしますか?
安藤 そうですね。やはり聞き取れないところもあってニュアンスなどわかりにくい部分もあるので、通訳はあったほうがいいかなと感じました。
- 事前に語学の勉強はされていかれたんですか?
安藤 大学時代に4年間、フランス語の講読などを勉強してはいたのですが、会話は全くだったので、少しCDを聞いて、初歩的なこと、たとえば道の聞き方や数字などは覚えていきました。
- 向こうで役に立ちましたか?
安藤 実際に道を聞くときには役に立ったのですが、それだけではホームステイ先で他の学生さんたちと会話をするのは難しかったです。
ホームステイ先で
- ホームステイ先にはいろんな国の方がいらしたんですか?
安藤 はい。アメリカとベネズエラの方がいました。
- その方たちとは、英語でコミュニケーションを?
安藤 はい。最初は無理をしてフランス語で会話をしていたんですが、最後は英語になっていました(笑)。
- 海外の方とうまく付き合うコツはありますか?
安藤 そうですね、やはり語学をきちんと勉強しておくことですね。あと、笑顔を絶やさないことは大事だと思います。
- ホームステイ先はどのような感じのところでしたか?
安藤 とてもきれいで広いお部屋でした。窓が大きかったり、壁紙が白地に葉っぱの模様だったりと、やはり日本よりおしゃれでした。
- お部屋の大きさはどのくらいだったんですか?
安藤 とても広かったです。12畳くらいありました。部屋には、ベッド、机、テレビ、引き出しの家具、物が置けるラックがありました。ハンガーも用意されていました。他に、流しとお手洗いとお風呂が部屋についていたので、とても快適でした。洗面所もお風呂もいつでも自由に使えて、帰宅時間も自由だったので、遅くまで学校にいることもありました。
- 帰宅時間が遅くなったりして、危険なことはありませんでしたか?
安藤 思ったよりも観光客がいっぱいで、自分と同じように地図をもっている人がたくさんいたので、あまり危険を感じることはありませんでした。
- 宿泊先とレッスン会場は何で移動されていたのですか?
安藤 メトロで移動していました。
- 乗り換えなどで困ることはありませんでしたか?
安藤 分かりやすかったので、大丈夫でした。メトロを降りてから歩くことのほうが大変だったかもしれません。
パリの練習室の入り口
- 練習室の会場はどんな場所でしたか?
安藤 大学の構内ですが、入り口で「ここはどこですか?」と聞いても、誰も分からないくらい分かりにくい場所にありました。結局、地図に“studio”という文字を見つけてたどりついたのですが、大学の地下にあるので、少し暗めの感じの場所でした。練習室も地下なので少し暗いところでした。
- ピアノの状態はいかがでしたか?
安藤 ヤマハのアッププライト・ピアノで、状態はわりと良かったと思います。
- 練習はどのくらいできましたか?
パリの練習室
安藤 16時間です。受付のお兄さんがよく話しかけてくださり、優しかったので、レッスンに合わせて練習時間の変更もしてもらいました。
- 練習以外の時間は何をされていましたか?
安藤 ずっとパリを歩き回っていました(笑)。
- どこかオススメの場所はありますか?
安藤 ノートルダム大聖堂、サント・シャペルのステンドグラスが美しかったです。
- 外食はされましたか?
安藤 ホームステイ先の目の前のチャイナレストランで、2回くらい食事をしました。
- お値段はどのくらいですか?
安藤 だいたい10ユーロくらいでした。
- 味はいかがでしたか?
安藤 チャイナレストランは美味しかったのですが、町で入ったカフェではキッシュの味が濃いところもありました。スーパーで買ったものは、とても安くて口に合いましたね。
- 外食以外のお食事はどうされていたんですか?
安藤 日本からレトルトの食品を持って行きました。山用品屋で買った水を入れて1時間待つとお赤飯ができるものなどを持って行きました。ご飯が欲しくなるので、そういうものを準備していったんです。
- お水はあちらで購入されたんですか?
安藤 日本からも持って行ったのですが、向こうにもたくさん売っていました。
- 他にも何か用意していったんですか?
ノートルダム寺院
安藤 少しでも時間があれば観光したかったので、ソイジョイやカロリーメイトのようなものを持って行って、時間がないときはそれをお昼ご飯にしていたのですが、とても便利でした。
- 短期留学に参加して良かったと思う瞬間はありましたか?
安藤 先ほどお話しした「チョコレートの箱から魚」といった先生の指導ですね(笑)。あとは演奏で、ベートーヴェンの晩年のつらい心境を表現しくださったのに
はとても感動しました。
- 今回、留学してみて、変わったなとか成長したなと思えることはありますか?
安藤 技術的なこともそうですが、考え方が少し変わったと思います。物事を柔軟に考えられるようになりました。やはり、違う世界を見たのがいい刺激になりました。
- 例えば、どういう部分ですか?
安藤 以前は、本番ですぐ緊張してしまったり、ちょっとしたことでくじけてしまっていたんです。でも、留学をして、向こうではもっと大きく音楽を捉えているように思いました。
- 音楽観、もっと大きく言えば、人生観みたいなものが変わったんですね。
安藤 そうですね。楽しまなきゃ損だなと思うようになりました。日本でも厳しい先生に教えていただいたこともあったのですが、暴言ばかりで……。今回の先生(ラムジ・ヤッサ先生)に出会って、優しくて実力もある、こんな先生もいるんだな、と思いました。
- そんな先生のレッスンを受けられて良かったですね。
安藤 はい。本当に。
- 音は変わりましたか?
安藤 はい、変わりましたね。特にブラームスは変わったと思います。
- 音楽のとらえ方は全然違うこともあったりしましたか?
安藤 今までと同じことを言われているところもあるんですが、さらにわかりやすいというか、1回で伝わってくる部分が多かったです。実際に弾いてくださるので、すごくわかりやすかったです。
- 日本と留学先で大きく違う点はありましたか?
安藤 日本だと新しいものばかり大事にされていますが、パリでは新しいものも古いものも同じように大事にされていると感じました。それから、家にもカフェにもチャイナレストランにも絵が飾ってあったり、すごく色やセンスを大事にしていると思いました。そこの場に行かないとそこで生まれた音楽は理解できないんだなと感じました。日本で研究していたプーランクの音楽も、実際にパリを訪れてみて、理解できたように思います。
- 留学前にしっかりやっておいたほうがいいことはありますか?
安藤 細かい地図を入手して、どこの通りを歩くかまでチェックして、毎日のプランをしっかりと立てておいたのですが、それはしておいてよかったなと思いました。
- フランス語、英語は問題ありませんでしたか?
安藤 そうですね。通じました。行く前は、フランスはフランス語で話しかけられるので、日本人が一度行ったら行きたくなくなる国No1と聞いていたのですが、道に迷っていたら、日本語で話しかけてくれたり、親切にしてくださる方もいました。レストランのおばちゃんも日本語で話しかけてくれました。
ホームステイの大家さんと
- ホームステイ先の大家さんと交流する機会はありましたか?
安藤 朝ご飯を食べるときに顔を合わせて、その度に話しかけてくれました。最初に家に入ったときに、優しく鍵の掛け方を教えてくださり、拙いフランス語を褒めてくださったり、オレンジカードをなくしたときやレッスン、観光のことなど、いろいろお話を聞いてくださり、本当にとても優しい方でした。
- 今後、留学する人にアドバイスをお願いします。
安藤 1週間でも留学できるというプランがあるということが、私にはとても良かったです。社会人になって自分の時間が減っても夢を叶えられる、ということを迷っている方たちに伝えたいです。すべてにおいてそうですが、年齢は関係ありません。留学してみて、行きたいと思ったとき実行するべきだと実感しました。
- 1週間でレッスン3回というプランはいかがでしたか?
安藤 やっぱり短いとは感じました。もう少し長くいれば、もっと変われたかなとは思います。でも、今の会社では1週間しか連続してお休みを取ることができないので、今の環境で精一杯できる限りのことをしたので満足感はあります。夢の留学をして本当に良かったと思っています。
- 今は仕事をしながら時間を見つけて練習しているんですよね。
安藤 そうですね。
- どのくらい練習されているんですか?
安藤 週末は1日中できるんですが、平日は2時間くらいですね。
- 今後のご予定を教えてください。
安藤 10月と3月にクラリネット、フルートとのアンサンブル、連弾などによるコンサートをします。あとは、8月にはクルーズ船での演奏、11月には母校の学園祭に出演します。
- 演奏活動を頻繁になされているんですね。今日は本当にありがとうございました。