語学も、追い込みがききません。
試験の1ヶ月前から実技を仕上げる人はいません。毎日の積み重ねでしか届かないことを、
あなたはもう知っています。
語学も同じです。半年かけても、必要な基準に届かないことがあります。
一つだけ、実技とは違います。実技は、その日までに積み上げたものを、そのまま聴いてもらえます。語学は、聴いてもらえません。基準に、届いたか、届いていないか。資格の有無だけを見られます。
しかも、その証明を求められる時期は学校ごとに違います。出願時に求められることもあれば、実技に合格したあと、入学手続きで初めて求められることもあります。
どちらであっても、届いていなければ、そこで手続きは止まります。

音大・大学院への出願を考えている方へ
短期の講習会・プライベートレッスンのみと決めている方は、語学の証明は求められません (ただしレッスンの理解度は語学で変わります)→ 短期音楽留学記事へ
「語学はあとで」── かつては、本当にそうでした
「留学は音楽さえできればいい。語学はあとで何とかなる」——もしそう聞いたことがあるなら、それは間違いではありません。かつては、本当にそうだったからです。
ボストン音楽院でマリンバを学んだ布谷史人さんは、入学当時の語学の扱われ方をこう振り返ります。
「多分、その当時はそんなに重要視されていなかったのだと思います。今は必要みたいですね。」
パリ国立高等音楽院を経てドイツへ渡ったフルート奏者の古賀敦子さんも、同じことを語っています。語学の証明書について尋ねられ、こう答えています。
「当時は必要なかったですが、今はどうなんでしょう」「ドイツも当時は必要なかったけれど、今は必要らしいですよ」
つまり、こういうことです。かつては語学が不要だった。今は、多くの学校で必要になっている。
あなたの認識が古いのではありません。情報が、古いのです。
実技で知っていることは、語学にも当てはまります

実技が、試験前の1ヶ月では仕上がらないことを、あなたはもう知っています。語学も、同じです。
ドイツの音楽大学でピアノを学ぶ本池美紀子さんは、留学のために日本で語学学校に通い始めました。それでも、2カ月後に現地の夏期講習に参加したとき、レッスンにはまだ通訳が必要でした。
「そのときはまだレッスンも通訳が必要で、初歩の語学力だった」
2カ月、毎日向き合っても、まだそこです。近道はありません。
「音楽が仕上がってから語学を始める」——その日は、来ません
実技には、終点がありません。今日仕上がったと思っても、明日にはまた、もっと良くしたい場所が見つかります。
だから、「仕上がってから語学を始めよう」と思っていると、その日は永遠に来ません。
ウィーンでの冬期講習に参加した村野江里さんは、留学前に準備しておくべきことを聞かれ、こう答えています。
「多分音楽は皆さんちゃんとやっていると思うので、語学ですね。」
音楽は、みんなやっている。欠けているのは語学のほうだ——これは、私たちが言っていることではありません。村野さんも、そう言葉にしています。
それでも、こう思う方もいるでしょう。「音楽の練習時間を削ってまで、語学をやるべきなのか」。
時間が限られているのは、その通りです。でも、削るか削らないかで考えている限り、語学は始まりません。これは順番の話です——後回しにするのか、今日から並行して進めるのか。
英国王立音楽大学で打楽器を学んだ川本裕之さんは、大学院に入る直前、語学の基準について聞かれ、「ギリギリ」だったと振り返っています。綱渡りだった、ということです。
1日30分でどうにかなります、とは言いません。実技と同じで、語学もそんなに甘くありません。
ただ、一つだけ確かなことがあります。積み上げた分は、無駄になりません。資格として認められるのは基準に届いてからですが、そこまでに積んだものが消えるわけではない。だから、始めるなら早いほどいい。
多くの学校では、語学の証明がないと、留学は確定しません
出願の準備を進めていくと、多くの場合、書類の中に語学の証明書が含まれています。本池さんも、大学院への出願にあたって、経歴や成績証明書と並んで語学の証明書の提出を求められました。
厄介なのは、この証明を求められる時期が、学校によってまったく違うことです。出願の時点で提出を求める学校もあれば、実技に合格したあと、入学手続きで初めて求められる学校もあります。
「実技さえ受かれば大丈夫」と思っていると、入学手続きの窓口で止まることがあります。逆に「まだ先の話」と思っていた語学の証明を、出願の段階で先に求められることもあります。どちらも、実際に起きています。
実際、英国の音楽大学の入学試験を取材した際、現地の教授陣からこんな話を聞きました。実技には十分な力があっても、語学の基準をクリアできない受験生が、想像以上に多いというのです。
※アンドビジョン取材時の記録より。
さらに、学校だけでなく、国がビザの条件として語学を課すこともあります(例えば英国の学位課程)。学校の基準は満たしていても、ビザの基準を別に満たす必要がある、というケースです。
ただし、これがすべての学校に一律に当てはまるわけではありません。語学の証明を求めない学校も実在します。学校によって差はありますが、多くの学校では、語学の証明が出願・入学の条件になっている、というのが実情です。
「では、何語をやればいいのか」── 最初の一歩は、国を絞ること
ここまで読んで、こう思った方もいるでしょう。「語学が必要なのはわかった。でも、何語を勉強すればいいのか、まだ決まっていない」。
これは自然な迷いです。そして、順番を間違えると、いつまでも語学を始められません。
何語をやればいいか決まらないのは、志望校が決まっていないからです。だから、最初の一歩は語学の教材を開くことではなく、「国を絞ること」です。国が決まれば、言語は自動的に決まります。
「語学に時間がかかる」ということは、裏を返せば「国を決めることにも、締切がある」ということです。国を絞ることを先延ばしにするほど、語学を始められる日も遠のきます。
ここで、判断のヒントになる事実を二つ挙げておきます。
- 英語で学べる国は、英米だけではありません。その国の言語ではなく、英語で出願できるプログラムも存在します。
- ドイツ語圏は、思われているより広い。ドイツだけでなく、オーストリアやスイスの一部にも及びます。
さらに、学ぶ音楽そのものによっても行き先は変わります。ヨーロッパでクラシックを学ぶ道もあれば、アメリカでジャズやコンテンポラリーを学ぶ道もある。どちらを選ぶかで、必要な言語も変わってきます。
「何語をやればいいか」は、一人で決めるには情報が足りない問いです。国を決める判断材料を整理し、あなたに合う選択肢を一緒に絞り込みます。
あなたはどの国を目指すべきか。そこから、始めるべき語学が決まります。
間に合わなくても、多くは遠回りで済みます(例外もあります)
それでも、準備が整わないまま出願の時期を迎えることはあります。
多くの学校には、語学の基準に届いていない学生のための仕組みが用意されています。聴講生としての在籍、入学と同時に語学の履修が義務づけられる仕組み、渡航後に受ける準備コースなど、名称や形は国によって様々ですが、いずれも「今の実力のまま、時間をかけて基準に近づく」ための仕組みです。
ただし、こうした仕組みが用意されていない学校もあります。その場合、ここまで積み上げてきたのに、留学につながらない、という結果になることもあります。学校によって差がある、というのが正直なところです。
正直に言えば、語学の証明が不要な学校、あるいは基準がゆるやかな学校も実在します。それ自体は、隠すべきことではありません。
ただし、選べる学校は確実に減ります。そして学校が譲歩してくれても、国(ビザ)がその基準を下げてくれるとは限りません。準備が整うまでの期間や費用は、想定より長く、多くかかると考えておいたほうがいいでしょう。
語学ができると、見えるものが変わる
ここまで、語学を後回しにできない理由を中心にお話ししてきました。最後に、語学ができるようになると何が変わるのか、少しだけお伝えします。
パリでピアノを学んだ奥山彩さんは、語学について率直にこう語っています。
「先生もいつも語学力については文句を言っていますので」「全く出来ないよりは中級レベル位までやって来られる方がいいと思います」
先生との対話の質そのものが、語学力によって変わるということです。

そしてこれは、ウィーンやパリの演奏会場に限った話ではありません。ボストンやニューヨークで、ジャズやコンテンポラリーを仲間とセッションする——その現場でも、起きていることは同じです。
バークリー音楽大学のサマーコースに参加した小林遼香さんは、英語が得意なわけではありませんでした。それでも、寮のミーティングで自分からこう伝えたと振り返ります。
「私はそんなに英語得意ではないけれど、みんなと色んな話がしたい」
すると周りが助けてくれ、輪が広がっていきました。語学は、仲間と音楽を分かち合うための入口です。入口が広いほど、分かち合えるものも増えていきます。

ヴァイオリニストの相曽賢一朗さんは、渡航後に語学がどう変わっていったかをこう振り返っています。
「3ヶ月すると不自然な感じがなくなり、6カ月したら別に不自由なくできるようになりましたね」「外国で暮らしていても日本人の中だけにいると、10年20年たってもやっぱりしゃべれないですね」
語学の環境に自分を置き続けることでしか、この変化は起きません。
フランスで長く学んだ鈴木晴美さんの言葉は、もっと率直です。
「コンプレックスを持ってフランスにいるとすごく不幸だと思います」
語学は、単なる書類上の条件ではなく、現地での毎日の心の状態そのものに関わってきます。
なお、「勉強のための語学」と「仕事をするための語学」は、また別の話です。この記事の範囲を超えるので、詳しくはこちらで扱っています。
同じレッスンでも、同じセッションでも、聞き取れる言葉が増えるほど、持ち帰れるものは増えていきます。——言葉がわかれば、音楽が広がる。
よくある質問
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あなたの場合、いつまでに・どの国を・どの語学レベルで目指せばいいのか。一緒に整理します。






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